コラム:焼く

(2018年8月7日)

鏡のように磨かれた鉄板。その上で焼かれた野菜には、一滴の油も使われていない。

それは「焼く」というより「干す」に近いのかもしれない、と「今彩」の主人、熊谷加津雄氏は語る。

野菜に限らず、鉄板で焼くには従来、油が不可欠だった。これは下味の為の塩やこしょうを定着させ、油の被膜でムラなく早く焼き上げるための準備で、西洋料理の基本。素材を焦がさないためにも、つねに油が必要だったわけだ。

だが、熊谷氏はそう考えない。

野菜のうまみ、甘み、風味をそのまま味わうには油は不要、塩さえしないのだと。

大根、かぶ、にんじん、どれも2cm以上の厚みがあって、芯まで火が通るのか、と思うほど。適度に温められた鉄板に根菜を並べると、表面にある水分がプチッパチッと弾ける。ふたをかぶせ、蒸らす訳でもなく、鉄板の表面温度で乾かしていくのだ。

バーベキューでは一般に、肉や魚をおいしく焼くことはできても野菜となると難しい。火力が強すぎると、すぐに焦げて炭の味しかしない。だれしもが一度は味わったことのある、苦い経験だ。

焼きあがった分厚い根菜類には、粗めに挽いた岩塩が合う。全体に効かせるのではなく、根菜自体から引き出された甘みに岩塩のシャープさを活かしたい。アクセントとして香り高いみそやオイルをつけてもおいしい。

少し焦げた表面の香りは野菜全体を包み、野菜の香りと相まって、まるで燻製のような複数の風味を織り成してくれる。

焼いただけの野菜が、みごとに、ひと皿の料理となっている。この焼き方はテフロン加工のホットプレートを使えば、家庭でも簡単に楽しめるそうだ。

葉物野菜などは、パリッとのりのように焼いてみると、これまた美味。

鉄板の上で、またひとつ新たな料理の理想が生まれた。